猫に鰹節。陰玉仙人に太もも
陰玉仙人

大和(ヤマト)の久米の仙人の話は知っておろうな?
知らん人のために概略を書く。

ある時、久米の仙人が雲に乗って遊んでおった。
(多分遊んでおったと推測す。旅に行くとは何処にも書いておらんから)

仙人がふと下界を見下ろせば、清き川(吉野川) のほとりで、若い女が大根を洗っておった。
(人妻とは書いておらんから、処女、生娘にしといた方が、より気分がたかまるというもんじゃ)

その乙女の着物の裾が乱れ、赤い腰巻が割れて、真っ白い太腿が露出しておった。(これが黒い太腿では話にならんじゃろうて)

仙人はそれを見て、年甲斐もなく(仙人が何才かは書いておらんが、一説によると大体、1,000年は生きておるそうじゃ) 興奮。
クラクラと目まいがして、もっと奥(いうまでも なく太腿のもっと奥の方じゃ)まで覗こうとして、雲の上から踏みはずし下界に落ちてしもうた。
(下に落ちて、怪我したのかどうかは書いていない)

(尚、今昔物語集では、空を飛行していたと書いており、雲に乗っていたとは書いてない。娘も大根洗いではなく、洗濯していたとある。太腿ではなくふくらはぎと書いてあるが、わしの脚色の方がおもしろい。わしの方が想像力が上じゃ。)

だいたいにおいて、仙人というのは、松の実、木の根を食っとるから、栄養不足で、あまり欲情しないはずなんじゃが、若い娘の太腿の魅力は別も のじゃ。
(仙人はその後、この娘と結ばれ俗人となったら しい。それから何をしていたかわからんが、都の造営工事の人夫となり、超人的な働きをしたそう な)

仙人になっても女のチラリズムには弱いんじゃ。
男子共通の悩ましい問題じゃ。
太腿の奥がどうなっているかについて、男は、さかりのついた馬のように興奮するんであって、
(だから覗きビデオが売れるんじゃて)
ご本体そのものを見てしまうと、タワシを見ておるようなもんで正気に戻ってしまうんじゃ。
(タワシそのものが好きというのも、いっぱいおるが)
女子はここのところをよく心得て、作戦を立てれば、男はイチコロで落ちる。

さて、ここまでが前置きじゃ。
現在の陰玉仙人の話に戻ろう。
現在の娘は腰巻きではない。
巻きスカートじゃ。
あれがイカン!
ある時、わしがデスクワークしておった時、隣のジョシジムインの巻きスカートがまくれ上がって、 むっちりした白い太腿がまる見えなんじゃ。
(ボタンを上の方まで全部はずしておった!)
それも足を組んだり、ほどいたりするもんじゃから、そのたびにチラチラ奥まで見えるんじゃ。
わしは、チロチロ横目で盗み見ながら、何と食欲 をそそる太腿をしておるんじゃと
猫に鰹節、陰玉仙人に太ももとはこのことじゃ。
その日、一日ドキドキして、仕事も上の空であっ た。

その夜、わしは、彼女の太ももが頭から離れず悶々としておった。
ボウッとしびれたような頭に、太ももが現われては消え、消えては現われた。
煩悩に苦しんだ(いや楽しんだのかな)夜だった。
次の日、とんでもない事故に遭遇するのも知らんで。

朝が来た。 5時半。
わしは、フラフラの状態で起き、オートバイに乗った。(現代の仙人は、オートバイに乗ってやってくるんじゃ。雲の代わりじゃよ)
何処へ行くんかて?
川じゃよ。
川に何しに行くんかて?
みそぎじゃ。
この、煩悩まみれのからだを浄めに行くんじゃ。
(というより冷やしに行くんかも)
この辺が、わしが凡人と違う点じゃ。
シャワーでもええじゃろがて?
それもそうじゃ、その方が楽じゃしな。
これからはシャワーにするわい。

その日は雨だった。
ブルン、ブルン、ブルーン。オートバイを走らせた。
今になって思うと、この時の状態は、ほとんど眠っている状態だった。
前夜、ウツラ、ウツラと妄想の世界におったから、 ほとんど寝とらん。
運動神経が目覚めぬままオートバイに乗ったんじゃ。
交差点。信号で待っていた乗用車に、はっと気付 いて、急ブレーキを踏んだ。
その途端オートバイがスリップして、ぶっ飛んだ。
わしは、その時のことを、ありありと覚えておる。
「なんじゃ、なんじゃこれは、地球が逆さまになっとるがな」
わしの体は宙で一回転してスローモーションのよ うに、地面に叩きつけられた。
救急車で病院に運び込まれた。
肋骨3本と、左の肩甲骨を折っていた。
首から、ヘソ下までギブスをはめられ、亀が甲羅を背負っておるような格好になった。

これは8月のことである。
ギブスがとれるまで1ヶ月かかる。
背中が痒い。臭い(風呂に入れない)
それでもわしは、毎日デスクワークをしよった。
太ももの彼女は、竹べらをギブスの下に入れ、器用に、掻いてくれおった。
わしは、「気持ちいい、気持ちいい―――。
そこじゃ、そこをもっと掻いてくれ」と嬉し涙を浮かべながら、彼女の竹べらに身をまかせておっ た。
(ほんとうは、もっと違うことしたかったのに)

数ヵ月後、彼女は退職することなった。
わしは、彼女と別れの宴を持った。
白い太ももの彼女は酒に強い。
酔った勢いでわしは聞いた。
あの日の巻きスカートの件を。
すると彼女はニヤッと笑った。
そして、
「わたしは昔から根暗なの。根暗には根暗のやり方があるのよ。わからなかった?」
なんと、彼女はわしを誘惑しておったというんじゃ。
それなら遠慮なく、頂くんであった。
わしら男と違って、女の信号の出し方は、多彩じゃから困る。
わしは単純じゃから、今もってその辺がようわからん。
何ぼ仙人修行したゆうても、女は永遠の太もも。
じゃなかった永遠の「謎」である。
彼女はわしを好いとったんじゃぞ。
わしは、嬉しかったぞ。

それで彼女に「わしはいつでもOKじゃから、こ れから泊りに行く?」と直接的にアプローチしたが、「今日は駄目」といって断られた。
それっきり、これっきりで、それから10年経つが彼女からは何の連絡もないんじゃ。
月日を経って、彼女の顔も忘れかけておるが、あの巻きスカートから、こぼれ出した太ももは、死ぬまで忘れられんわい。
これからも、何回、女の太ももで下界に落ちるかもわからん。
たとえ、1000年生きようとも。 ああ。


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