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陰玉仙人 じっくりタイトルを見てくんろ、前回は戦国時代を舞台に「処女懐胎」を書いたが、今回は「非処女懐胎」じゃ。 |
しばらく後に、この易者がいかにすぐれた易者であったか証明されることになる。 わしは村へ戻り、村はずれの県営住宅に向かう。 今日は、彼女と約束した日ではないが、あの日以来、彼女はツンツンして口も聞いてくれない。 彼女の家は、玄関灯はついているが、部屋の明りは消えている。 ドアには鍵がかかっていて開かない。 「夜の10時を過ぎたというのに、まだ帰ってないのかな」 裏手に回って見る。中に人の気配がする。 ベランダのサッシには、厚いカーテンが引かれていたが、鍵がかかっていない。 思い切って一気に開ける。 男と女があわてて起きる。男はスッポンポン、彼女は、下着だけ。 「誰じゃ! どこのどいつじゃ」 わし、「お前こそ誰じゃ」 そして二人ともあっと声を上げる。 何と、その男は、同じ村の小学校以来の同級生じゃった。 「お前ら、いつからこんな関係になっておったんじゃ」 「お前こそ、どうして、ここに来たんじゃ」 その時、彼女がどうしておったのか、わしの記憶にはない。頭に血が上って冷静に事態を考える余裕もない。 「わしの彼女にお前、手出したな」 「お前こそ、わしの女にちょっかい出したな」 わしらはお互いののしり合って、一触即発の状態となる。 「表へ出ろ!」 といったて、相手はスッポンポンのままだから、表に出るわけには行かないて。 わしは、怒鳴りながらも、急速に虚しくなる。 そういう女だったんか。わし以外にも男を引っ張り込んでおったんじゃ。 この調子では、他にも男がいるかも知れん。 処女やと思うてたけど、とんでもない女じゃ。(後でわかったことだが、彼女は4人の男を部屋に引き入れていた。後の3人も皆、わしの知り合いじゃた。おとなしそうに見える女ほど、曲者じゃということが、これでわかったろうが) わし、彼女に言う。 「お前、わしの子を妊娠したというたやないか。ほかにも男がいるのに何でそんなこというたんじゃ」 彼女「ごめん。ほんまにあんたの子やと思うたけど、あんたに妊娠したというてから、3日後にメンスあったの」 つまり、妊娠したというのは、彼女の早とちりで、月のものが3ヶ月以上も遅れとったというわけじゃ。 何と言う名易者か。 易者は、「その子は地上にうまれて来ん」と言った。 その通りじゃ! もともと妊娠しとらんのじゃから、生れるはずもないわ! 修羅場に戻る。 わしはもう、気持ちがさっぱり冷めておった。 (昔から割りとあきらめが早い) そして、わしは、その男に言った。 「わし、もう降りるよ。二人で好きにしたらええわ。わし旅に出るけん」 この後、わしは彼女の家を出て、柴又の寅さんよろしく深夜の山道を何時間も歩いて旅に出るのである。 その話をし出すと長くなるので、ここでは割愛。 それきり、これきり、彼女とは、二度と会うことはなかった。 後年、風の噂で、彼女は、勤めていたパン屋の二代目と結婚したそうじゃ。 |
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